Jean-Louis Raillard

 

DRC、ルロワ、プリウレ・ロック、ビゾなど
ブルゴーニュの一握りのトップ生産者達が拘る
≪全房発酵≫を設立当初から貫き、
アロマティックでエレガントなフィネスに溢れた
ブルゴーニュを手掛けるヴォーヌ・ロマネの小規模ドメーヌ
ジャン=ルイ・ライヤール

 

1968 年から元詰を始めたドメーヌ・ジャン=ルイ・ライヤールは、栽培面積僅か3 ヘクタール弱、総生産量5 千本前後という、他のヴォーヌ・ロマネのドメーヌに比べて極めて小規模なドメーヌです。
現当主のジャン=ルイ・ライヤールは、ロマネ・コンティで働いていた両親から1989 年にドメーヌを継承しました。DRC と極めて深い繋がりを持つライヤールは、DRC の瓶詰めに立ち会って試飲をする権利も持っていまが、最もこだわりを持っているのは設立当初から行ってっている全房発酵のワイン造りです。ブドウの房を果梗とともに発酵させる全房発酵は、DRC やルロワを筆頭に、プリウレ・ロック、ビゾなどが実践するブルゴーニュでは古典的な少数派の手法です。
温温暖化の影響で、ブルゴーニュでは数年前から全房発酵によるワイン造りへの回帰が進んでいます。例えば、アルヌー・ラショーでも2012 年ヴィンテージから全房発酵を導入しました。
このようなクラシックな手法へ回帰がブルゴーニュの新たな潮流となっていますが、20 年以上に亘り一貫して全房発酵にこだわり続けたライヤールのワインにはやはり一日の長があります。

 

<シュール・リー状態の熟成とバトナージュについて>
ドメーヌのワインは15〜18 ヶ月の間、澱と一緒に熟成されますが、この間、バトナージュは行われません。なぜなら、澱は低気圧の時にはワインの中に均等に浮遊し、高気圧の時には樽の底に沈殿するため、バトナージュと同じ効果を?然にもたらしているからです。
この特性を利用して、ドメーヌでは瓶詰めの一ヶ月前に熟成を終えたワインの澱引きを行い、瓶詰め時期がちょうど高気圧の時期になるようにプログラミングしています。ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティも全く同じ方法を取っています。

一般的に熟成中は、バトナージュをして樽の底に沈殿する澱を浮遊させないと問題が起きると言われます(澱がワインの重さで潰されるため)が、ドメーヌではシュール・リーの状態で熟成させることに関してはいかなる問題も発生していません。幾つかのドメーヌが、澱引きをしないことで還元の問題に突き当たるのは、SO2 の過剰な添加に由来するもののではないかと考えられます。
ドメーヌのワインは、マロラクティック発酵の際に発生する炭酸ガスによって酸化から守られるため、二酸化硫黄を過剰に添加する必要がありません。但し、補酒は定期的に行なっています。しかし、多くても一週間に一回です。また、ライヤールは決してポンプを使ってワインを取り扱うことはありません。瓶詰め前の最後の澱引きの際にもポンプは使わず、樽の上部の穴からの空気圧によって、樽内からワインを押し出すという?然な方法で?なっています。この方法だと酸化を防止するための処置はごく僅かで済み、ワインのアロマの全てを(揮発性のアロマさえも)失うことなくワインの中に残すことが出来るのです。
ドメーヌでは、ワインのアロマはワインの熟成過程における最優先事項の一つと考えています。ワインをシュール・リーの状態で熟成させることによって、新鮮な果物のアロマをしっかりと残しながらも、焙煎や燻した香りやトーストなどのトリュフに近いような香りもより多く残すことが出来るのです。

 

<全房発酵による醸造について>
ドメーヌのワインはAC ブルゴーニュを除いて除梗せずに醸造を行います。その理由は、果梗は種から得られるタンニンとは異なる補完性のあるタンニンをワインに与えて、素材に敬意を払って醸造することによってワイのアロマが一層複雑になるからです。しかし、果梗を残して醸造するためには、果梗がしっかり熟すのを確かめて収穫を待つこと。それから、機械を使用するピジャージュ(櫂入れ)は行なわず、ピジャージュは足で行なう必要があります。果梗を残して醸造する具体的な利点は以下の通りです。
果梗がアルコール発酵中における急激な温度上昇を抑え、固体と液体の間の良好なバランスを取ってくれる。
時期尚早な酸化を引き起こす機械による冷却、ポンピングオーバー、激しい攪拌などを行なわないことによって、揮発性の最も高いアロマを保持し、ワインに残すことができる。
アルコール発酵の期間がより長くなり、最上の抽出と、異なる成分(タンニン、色素、ポリフェノールなど)の間の自然な結合が可能になる。

除梗をする造り手達は、しばしば、果梗に含まれる自然なタンニンの不足を、商店から購入したオークのタンニン(注:樽ということではなく、添加物としての「オークのタンニン」)を加えることによって補おうとします。これは認められた行為ですが、ブドウに由来しない成分を加えることは、ワインのバランスの安定化と調和あるワインの融合化を難しくしてしまいます。

手作業(ここでも機械は使わない)の液抜きの際、果梗という「植物性の塊」が自然なフィルターとなって大きい澱や沈殿物を捕らえるため、より清澄度の高いフリーランワインの排出が促され、最上の圧搾が可能になる。
この最初の段階からワインの清澄度が高いため、熟成後の無清澄・無濾過の瓶詰めが容易になる。

 

ドメーヌの所有区画と各キュヴェの詳細(2012Vnt)

キュヴェ名

クリマ名

栽培面積

平均樹齢

熟成方法
(全てアリア産の木目の細かい容量228リットルのバリック)

熟成期間

ブルゴーニュ・ルージュ

レ・パキエ

0.35ha

47年

新樽20%、使用済樽80%

14ヶ月

ニュイ・サンジョルジュ

レ・フルリエール

0.10ha

77年

新樽60%、使用済樽40%

14ヶ月

レ・シャルモア

0.24ha

72年

レ・ゼルビュ

0.03ha

32年

レ・シャン・ジュリアン

0.09ha

61年

ヴォーヌ・ロマネ

オー・ラヴィオル

0.20ha

57年

新樽60%、使用済樽40%

14ヶ月

レ・メジエール

0.06ha

67年

オー・シャン・ペルドリ

0.12ha

27年

ヴォーヌ・ロマネ
1級レ・ボー・モン

レボー・モン・オー

0.20ha

77年

新樽100%

14ヶ月


総生産本数
約7,000本前後

トータル
3.5ha

平均
50年


 

【ドメーヌ発表の2012ヴィンテージの作柄コメント】

2012 年はあらゆる危険があった年でした。
2012 年の初め、特に2 月から3 月にかけては非常に乾燥した天候が続きました。ブドウ木は過去40 年で最も早く、3 月末に萌芽しました。しかし、それから7 月までの間、異常気象と呼べるような天気にともなう被害が数多く起こりました。その意味で、2012 年は非常にリスクの高い年でありました。
まず、 4 月13 日と4 月17 日には気温がマイナス1℃からマイナス3℃にまで下がり、若木のブドウが霜で被害を受けました。続いて5 月15 日にも気温がマイナス2℃にまで下がり、特にシャサーニュ・モンラッシェ村が霜の被害を受けました。さらに6 月の開花の時期には、雨と低温によって花ぶるいが起こり、収量が激減しました。そして、6 月から9 月にかけては、雹を伴った雷雨がたびたびブルゴーニュ地方を襲いました。 6 月7 日にはサン・トーバン、オークセイ・デュレス、ボーヌ、サヴィニー・レ・ボーヌが、 6 月30 日と7 月1 日にはヴォルネィ、ポマール、オークセイ・デュレス、ボーヌが、 7 月4 日にはプレモーとマルサネーが、 8 月1日にはオート・コート・ド・ニュイとオート・コート・ド・ボーヌが、 9 月12 日にはサントネーが被害に遭いました。 7 月24 日と26 日には、幾つかの区画で、湿気を伴っていたブドウの葉が猛烈な暑さでお湯をかけたような状態になってしまいました。

ブルゴーニュのこのような天候状況の中で、私は大変な危惧を持ちながらブドウの栽培をしていました。しかし、6 月の花ぶるいを除き、ヴォーヌ・ロマネ村だけは奇跡的に被害を免れたのです。また、8 月から9 月終わりまでは、記録的な暑さと晴天が続き、成熟した質の良いブドウを収穫することが出来ました。
ドメーヌでは多くの区画で除葉を例年よりかなり早く行って、ブドウの果皮の抵抗力を高めたり、ブドウ回りの空気な流れを良くしてボトリテイスの発生を予防するなど、2012 年の天候に応じた畑作業を日々行いました。そして、天気予報が9 月の素晴らしい晴天を予測した段階で、私はリスクを冒して、清潔で風通しの良い小粒のブドウが完熟するように、収穫を9 月末まで最大限に収穫を遅らせるという決断をしました。
この結果、酸と糖と成熟したタンニンが高い次元でバランスが取れた果実味のあるブドウを収穫することが出来たのです。醸造に関しては、アルコール発酵もマロラクティック発酵も熟成も、全てが全く自然に行われ、何の問題もありませんでした。

●2012 ブルゴーニュ 赤
生き生きとした赤い色合い。フレッシュな香りと味わい。チェリーのニュアンスを感じさせる果実味で、穏やかなタンニン。

●2012 ニュイ・サン・ジョルジュ
透き通った美しい赤い色合い。スグリを思わせる香りに、フレッシュで?地良い?当たり、ビロードのようなタンニン。長い余韻。

●2012 ヴォーヌ・ロマネ
心地良いタンニンと共にフルーティで豊満な味わい。樽の風味は強くなく、味わいによく溶け込んでいる。レッド・フルーツやチェリーを思わせる香り。深い赤の輝くような色調。素晴らしい余韻とバランス。

●2012 ヴォーヌ・ロマネ“レ・ボー・モン”一級
レッド・フルーツやスグリ、そしてすでによく溶け込んだ樽の風味がフレッシュ・アーモンドのノートと共に感じられる。素晴らしいバランスと複雑さ、そして長い余韻。輝くような深い赤の色合い。