ビオデナミのワイン

土地の個性を映すワイン造りを求めて

ワイン造りが産業化し、畑では効率を求められた。「化学肥料」「農薬」が使われ、機械や近代的な技術が多用されるようになった。その結果、自然の体系は崩れて、大量生産のワインはテロワールの特色を映さないものとなり、「スーパーに並ぶ野菜が見た目はきれいでも本来の味わいや香りを失った」ことに気付いた生まれる土地の個性を映した「農産物」としてのワインの原点に回帰しようと考える意識的な生産者が捜し求めたところにバイオダイナミックスがありました。

「バイオ」は生命、「ダイナミックス」は力学を意味する。バイオダイナミックス(ビオデナミ)は、1920年代にオーストリアの思想家ルドルフ・シュタイナーが提唱した。農薬や化学肥料を使用せず、土壌の活力を取り戻し、太陽や月の動きが環境に及ぼす影響を考慮しながらワイン造りを進める。有機肥料を使うだけでなく、自然に働きかけ、土地が本来備えている力を引く出そうというのです。
ローヌの「シャプティエ」社のミシェル・シャプティエさんは、来日した折のセミナーで人間の病気を例にとっての説明によると
「頭が痛くなった時に鎮痛剤を飲むのは化学農法で、ハーブティなどを飲んで直そうとするのが有機農法。ビオディナミでは、頭痛の原因を突き止め、体を根本的に改造しようとする。これをブドウ畑に置き換えると、害虫がついたら農薬をまくのが化学農法で、天敵となる鳥の巣箱を設置するのが有機農法。ビオディナミでは天敵の繁殖を促す植物を植えるなど自然環境作りに取り組むこと」
といい、有機・無農薬の農法というだけでなく、「自然界との調和」する農法だという。

上記のM・シャプティエ氏、ブルゴーニュのルロワ婦人などもビオデナミに取り組んでいますが、ビオデナミについてはニコラ・ジョリーさん!この方の右に出る方はいないと思われます。


セミナー直前の
ニコラ・ジョリー氏

ニコラ・ジョリーさんは、ロワールで【クロ・ド・ラ・クーレー・ド・セラン】を全てヴィオ・デナミを実践して生産している。1976年に米国より帰国、葡萄栽培の見習をはじめた。当初は、他の農家と同じように除草剤や化学肥料を使って栽培していたのである。しかし畑に昆虫がいなくなり、土壌も明らかに変質しているのに気づいた彼は、バイオダイナミック農法に取り組むことを決め、現在では『ビオディナミの伝道師』とも称されている方。
このN・ジョリーさんのセミナー(2003/01/29)に参加してみました。
ビオデナミ(生力学農法)について、「重力と浮力」「四季」「惑星の影響」などを熱っぽく語っておりましたが、これに関しては未だ正確に伝えることはできませんので、彼の【クーレー・ド・セラン】の簡単な葡萄栽培の方法と、ワイン醸造についての哲学をセミナーのテキストから転記しておきます。

-------ここから

【葡萄栽培】

クレ・ド・セラン栽培地の最古の葡萄の樹というと1920年半ばに遡り、平均樹齢は30年以上である。クローンの激しい反対者であるニコラ・ジョリー氏は、栽培地のシュナン品種の苗木からできた葡萄株を植え付けている。彼は葡萄の樹(5世紀に渡る相続を経て一面に植えられている最古の葡萄の樹を使用)を接木し、発芽した種を移植している。(現在の葡萄畑)土壌は良く手入れされ、葡萄の背丈は低い。ボルドー液と硫黄だけを使用している。その他は、除草剤、殺虫剤、化学肥料等一切使用しない。
また、手摘みで収穫された葡萄は、2〜7回に渡って選別される。
ワインは1987年から<デメテール>表示(ビオデナミで造られたワインの称号)をもっている。このマークを得るにはワイン畑のビオデナミ農法転換後、3年の栽培経験が必要とされている。

 

ワイン醸造】

●沈殿物処理(デボルバージュ)はしない
オリを除去する必要がどこにあるのか。ビオデナミでは、葡萄に悪質な腐敗現象がでることはほとんどない。オリは、健全な醗酵を行うために必要な多くの活力ある要素を含んでいる。
 
●低温処理はしない
冷気は崩壊を示し、生命ある活力と反対の意味を持つ。この方法で酒石を取り去り、ワインの酸味を低く抑えることができるが、我々の意見としては好ましくない技法である。
 
●人口酵母注入はしない
ビオデナミでは、毎年、酵母は大変多数増殖し、各ヴィンテージの特有性を引き出すものである。向上で製造された酵母は、だいたい芳香性のあるもので、AOCんが自然に出す味を壊し、大変奇妙な味に変えてしまう。
 
●清澄化作業(コラージュ)はしない
これは古い方法であるが、アルブミン(たんぱく質)や魚から作られた糊材をワインの中に入れオリをとるこの方法は、少量生産している我々にとっては必要ないものである。自然に樽の中でオリが沈殿し、清澄が行われるからだ。
 
●醗酵のための温度調節はしない
ロワール地方で見られる少量生産ワイン(1トンの葡萄から600リットルの生産)において、醗酵中、温度が25度〜30度に上昇してもワインに害を及ぼすことは全くない。一定した温度で無理にワインを醗酵することは、別の新しい状態になるための一種の熱である醗酵の深い性質に逆らうことになる。醗酵は直線的でなく曲線的に進行されなければならない。
 
●僅かな新樽使用
毎年、3〜4%の新樽が取り入れられる。樽はワインが健全な呼吸するのに重要である。新樽はワインに風変わりな味をつけてしまうので、たとえ便利で快適なものであっても我々はその数を限定している。ワインは自給自足をする。樽の球形はワインにとってプラス要因である。大自然が卵の形から生命を与えられることは、偶然のことであろうか。樽はその球形によって、生命力を濃縮させるのである。
 
●澱引き・ワインの詰め替え(スティラージュ)
この作業は数回おこなわれる。これは酸素供給である。ビオデナミによるワインは、酸化には心配ないが還元(酸素不足によるチオールの出現)に注意しなければならない。健全な栽培でよく育った葡萄果実からできたワインは、酸化によって直に損なわれることはなく、新たに良くなり長持ちする。例えば、我々の造るワインは半分飲んで栓をしたまま置いておくと、3〜4日以降により良い状態になる。
この作業を行うときはいつも2gの亜硫酸を加えるが、とても微量であるのでワインに全く影響を及ぼすことは無い。硫黄は光の形態を表す。これを使わなくてもワインはできるが、移動に弱くワインが変質する危険性があるものとなり、逆にこれを防ぐために他の有害な処理剤(アスコルビン酸)を使用せざるをえなくなる。
 
●還元する糖
一般に我々のワインには2g以下の還元する糖が含まれている。上質ワインであれば、消費者の味覚を満足させ楽しませるために、少量の糖をアルコール変換させずにそのまま残しておくよう技は必要ないと思われる。ワインのアルコール度数が14.5度を越えれば、酵母の働きで少量の糖をアルコールに変えず自然に残すことができる。それでも、このようなワインは、辛口ワインのような味がする。酸味はおよそ“PH3.5”の数値である。ワインが辛口の場合フィルター清澄はあまり意味がない。
  
このようなワインはできれば24時間前にカラフに移し替えるか、最低12度以上の温度で食卓に出さなければいけない。半分飲み、冷蔵庫に入れず、栓をしておいておけば、3〜4日後よりいっそうおいしく飲める。
 

--------ここまで転記

 さらに、ジョリーさんは、こう付け加えました。
『ビオデナミのワインは多様性を賞賛し、地球の生力学に基づいて全体の調和したものであり、おいしいという価値基準から造り上げられたものではないのです。「品質」という言葉の定義を正しく理解してほしい。ビオデナミでできたワインは、必ずしもおいしいというのではなく、常に「本物」であると言うことです。』と。

ビオデナミの品質憲章 ワインリスト