ジャック
& エリック・ボワスノ親子
ボルドーには世界に名だたる醸造家が顔を揃える。ミッシェル・ロラン、ドゥニ・デュブルデュー、ステファン・デュルノンクール・・・。しかし表舞台には登場しないが、ジャックとエリックのボワスノ親子以上にメドックの超一流シャトーに絶大な影響力を与えている醸造家はいない。なぜなら、彼らはムートンを除く全ての一級シャトー、コス、ラスカーズ、パルメ、ピション・ラランドといったスーパー・セカンズのほぼ全てと、メドックの格付けシャトーの実に4割のコンサルタントを一手に手掛けているからだ。事実、ボワスノは「メドックにある葡萄畑の全ての列を把握している」と言われており、フレデリック・アンジェラやジャン=ギョーム・プラッツ、ポール・ポンタリエといった実力者からは、尊敬を込めて「メドックの守護神」と呼ばれている。
故エミール・ペイノーの右腕として1963年にシャトー・ラトゥールでコンサルタントを始めたのを皮切りに45年以上に亘り活躍を続けるボワスノは、1960年代からのワインの味わいを全て覚えているという。時代や経済状況に応じてシャトーのオーナーは代わる。経営方針も変化する。消費者の嗜好も変わる。しかし、ボワスノの舌に宿るテロワールの記憶は存在し続ける。イタリア、チリ、カリフォルニア、オーストラリアでも仕事をし、世界の潮流も知っている。最高の土地と人材に恵まれながらも、さらに完璧を期す。ボワスノこそが超一流ボルドーワインの伝統の厚みを影で支えている男なのである。
2009/09/15発売の雑誌「Pen」はまるごとワイン特集より抜粋