■「木桶仕込」ってどんな酒
近代の日本酒製造技術は、吟醸造りに象徴されるように、一定の型にはまった酒造りをどれだけ精度よく行うかという方向で進歩してきました。
特に、モロミの温度管理は、0.5℃以下の精度でコントロールできるようになり、またそのような管理がよいものとされてきました。それはそれで、もちろん間違いであろうはずがありません。近年の日本酒の酒質向上は、このような技術が背景にあったからこそ達成されたことも事実です。しかし、それだけが酒造りではないのではないというのが「木桶仕込」なのです。
現在の金属性のタンクでは、熱の伝わり方がストレートでその分酵母を思うようにコントロールできる反面、酵母に相当なストレスを与えながら酒が造られるのです。一方、「木桶仕込」の場合、緩やかに熱が伝わるために、酵母を思うようにコントロールできない反面、のびのびと酵母は発酵します。その結果、従来の酒よりも雄大な豊醇さでありながら、思いもよらないほど綺麗な旨味があり、それに木桶ならではの、木の香りと独特の風味の酒質になるのです。
『澤乃井』の田中杜氏は、「今までの酒造りは“人が造る酒”でした。木桶仕込は“人が造らされる酒”なんです。主役が人ではなく、酵母なんです。どんな酒になるかは、酒を搾るまで、まったく見当もつかないんです。木桶仕込は、私に酒造りの原点を教えてくれました。だから私は、木桶仕込を“原点の酒”つまり本当の“原酒”と呼びたいんです。」と語ります。田中杜氏のこの言葉が、「木桶仕込」をよく表現しています。
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