「接ぎ木という外傷を受けないブドウ樹は,まったく別のワインを生むのではないだろうか?」
今までの人生の中で,私は常にこの疑問を持ちながら過ごして来ました。そして,年月とともにオーセンティック(本物)なワインを追求したいという情熱が,夢を現実のものにしようと私を駆り立てるまでに強くなっていったのです。
まず,1990年,私は,それが引き起こすあらゆる危険を承知の上で,二酸化硫黄も培養酵母も添加せず,無補糖,無清澄,無濾過という人工的な介入を一切行わない醸造法で,“プルミエール・ヴァンダンジュ”という100%自然なキュヴェを造り上げました。
続いて,私はまったく未知の領域に飛び込もうと決心し,1992年に1ヘクタールの区画にガメィを接ぎ木することなく植樹したのです。これが,現在のトゥ−レーヌ・ガメィ“ヴィニフェラ”です。初めての収穫は1995年。結果は,私のあらゆる期待を凌駕する驚くべきものでした。出来上がったワインは力強い香りと強烈なルビー・レッドの色調と豊かな味わいを持ち,接ぎ木したガメィとはまったく異なるものだったのです。しかも私が,この若いワイン(初めての収穫=樹齢3年)と一緒に比較試飲したのは,樹齢25年以上のブドウ樹に由来するワインだったのですから,まったくもって驚きです。つまり,その時私は初めて,まったく違う次元の全く別のワインを味わったのです。トゥーレーヌ・ガメィ“ヴィニフェラ”は2002ヴィンテージで8回目の収穫となりますが,私は毎年同じ違いを確認しています。
その後,人生の偶然は,私を1850年に植樹されたプレ・フィロキセラのブドウ樹の発見(1997年暮れ)へと誘ってくれたのです。ロモランタン品種が植樹されていたこの区画は,私にまた1つ新たなワインを与えてくれることになったのです。このプレ・フィロキセラ(つまり接ぎ木されていない)のロモランタンも,ロワールで通常に栽培されているクラシックなロモランタンとはまったく異なるものでした。確かに150年というブドウ樹の樹齢が影響を及ぼしていることは明らかです。しかし、それでも、このロモランタンの持つアロマの美しさとフィネスは,比較を絶するものでした。
この2つのキュヴェによって大きな確信を持った私は,接ぎ木によるワインの性質の違いをさらに証明するために,実験の場を広げることにしました。2000年,0.3ヘクタールの区画にガメィ,1ヘクタールの区画にソーヴィニヨン,2ヘクタールの区画にコットを接ぎ木せず植樹したのです。さらに2001年,近くに住む造り手が,私に樹齢20年を超えるカベルネ・ソーヴィニヨンとシュナンが植樹された畑を購入しないかと提案してきたのです。最初,私はこの畑の購入には否定的でした。しかし,当時の所有者が,接ぎ木せずにブドウ樹を植樹していたことを思い出したのです。というのは,当時,その所有者は高齢で貧しく,地元の苗木家から台木を買う手段がなかったのです。周りの造り手たちは,その畑がすぐにフィロキセラによって消滅してしまうだろうと彼を嘲笑していました。しかし,不思議なことに今日までブドウ樹はフィロキセラに侵されることなく生き続けているのです。
2002年秋,私は初めて,この接ぎ木していない6品種全てを収穫することができました。この接ぎ木をしていないブドウ樹に由来するブドウを醸造していて気づいた点は,
白ワインはどれも一様に,接ぎ木されたブドウ樹に由来するものよりもエレガントで上品,そして品格があること。赤ワインはよりリッチで濃厚な色調を持ち,そして,より多くの素材と濃度があるということです。
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